【平面線形】クロソイドのパラメータは小さめに抑えたほうが良い理由

はじめに

道路の平面線形において、緩和曲線(直線と円曲線を接続する部分)にはクロソイド曲線を使用します。

ここでは、私が「クロソイドのパラメータは問題が無い範囲において、出来るだけ小さめに抑えたほうが良い」(すなわちクロソイド区間の延長は短めに抑えたほうが良い)と考える理由について述べます。

なお、日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」に関しては、以下では「解説と運用」と記すことにします。

パラメータはどのようにして決めるか

まずは「そもそも論」のおさらいとなります。クロソイドのパラメータを決める際に勘案すべき項目は以下の4つとなります。

(1)緩和区間長を満足させる

設計速度により、緩和区間長(すなわちクロソイドの長さ)の最小値が、道路構造令により規定されています。

パラメータを小さくするとクロソイドの長さは短くなりますので(逆もまた然りで、大きくすると長くなる)、パラメータを小さくし過ぎて「クロソイド長が、緩和区間長の規定値よりも短くなってしまった」ということが無いように留意します。

(2)パラメータの最小値に留意する

「解説と運用」P.363で、道路の種類(高速道路なのか一般道路なのか等)及び設計速度によってパラメータの最小値の規定がありますので、特別な事情がない限りはこの規定値以上の値を採用します。

(3)パラメータの範囲に留意する

「解説と運用」P.365で、

R/3 ≦ A ≦ R

と規定されています。Rは接続する円曲線の半径で、Aは当該クロソイドのパラメータとなります。

特別な事情がない限りはこの範囲内に収めます。

(4)片勾配のすり付け率を満足させる

緩和区間(クロソイド曲線)は、直線部の横断勾配から曲線部の片勾配へとすり付ける区間となりますので、クロソイド長が短すぎると片勾配のすり付け率が規定値(最大値)を超えてしまうことになります。ちなみにこの規定値は「解説と運用」P.369にあります。

従って「片勾配のすり付けに必要な長さ」を下回らないようにパラメータ(クロソイド長)を決定する必要があります。これは道路構造令にも明記されています。

クロソイドのパラメータは小さめに抑えたほうが良い理由

サンプルケースとして、以下を考えます。

・ケース…設計速度60km/hの一般道で、直角に曲がる必要があり、そこそこコンパクトに曲げたい状況なので、円曲線は最小曲線半径の望ましい値であるR=200を採用する。

この場合、クロソイドの下限値と上限値は上で述べた(1)から(4)により、以下のように決まります。なお、(4)の算出にあたっては車線幅員が必要となりますが(道路種級で異なる)、ここでは3.25mと想定します。なお、数式の「二乗」は「^2」と表記します。

・(1)により、パラメータの長さはL=50m以上を確保する必要があるので、A^2=R×Lより、A=100以上(下限値)が必要。

・(2)による下限値はA=90。

・(3)による範囲は、下限値がA=R/3≒67、上限値がA=R=200

・(4)により、横断勾配が-1.5%→+8.0%に反転するとして(代数差は9.5%)、上昇量は、幅員3.25m×9.5%=0.30875m、最大すり付け率の規定値は1/125なので、必要長さは0.30875m÷1/125≒39mとなり、これがクロソイド長の必要値(最小値)となる。これは上記(1)よりも小さいことから、これ以上は考えなくてよい。

以上により、パラメータは下限値がA=100、上限値がA=200となります。

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上図は、青が下限値A=100を採用した場合、赤が上限値A=200を採用した場合の線形図となっています。当然ながら「R=200」は共通事項となります。

青のほうは「クロソイド区間はパッとコンパクトに終わらせている」状態で、逆に赤のほうは「クロソイド区間を最大限長めに取っている」状態となります。

私は赤よりも青のほうが好ましいと考えています。その理由を以下に述べていきます。

道路を走る運転者として

直線区間(R=∞)のハンドルは真っすぐで動かしませんし、円曲線区間(R=200)もハンドルを一定角度で切っている状態で動かしません。すなわち、ハンドルを動かしているのは「クロソイド区間」となります(真っすぐから一定角度に変化させる)。

青の状態は、この「ハンドルを動かす操作」を3秒で行っていることになります(この3秒が道路構造令が規定する最小値)。逆に赤の状態は、12秒も使ってハンドルを動かしていることになります。

自分がクルマを運転する運転者として考えた時、ハンドル操作に必要な時間なんて3秒もあれば十分であり、逆に12秒も使ってダラダラとハンドルを操作するとは考えにくいです(従って赤のような線形の道路であっても、実際の運転は車線内の余裕幅を使いながら(車線幅内で泳ぎながら)もっとハンドル操作が短くなる軌跡を描いて運転すると思われる)。

以上のようなことから、「実情に合っている」という意味で、青のほうが望ましいと考えています。

曲率(R)を大きく出来る

同じ「R=200」を採用していても、赤よりも青のほうが「コンパクトに曲がれている」ということになります。

すなわち、もし青を赤の位置まで寄せて良い(インカーブ側に振れて良い)のであれば、曲率をR=230まで大きく出来ます。(この時、(1)の条件よりパラメータはA=100ではなくA=110となります)。

すなわち、A=110、R=230、A=110という組み合わせで、赤の位置とほぼ同じ位置を通過することになりますので、この時、

・赤…クロソイド区間が無駄に長すぎる分、円曲線の曲率が小さくなっている。
・青…クロソイド区間をコンパクトに抑えた分、円曲線の曲率が大きくなっている。

という状態で「ほぼ同じ位置を通過している」(ほぼ同じ曲がり具合である)訳です。

円曲線の曲率は大きいほうが、片勾配も小さく出来ますし、視距拡幅も小さく出来ますので、基本的には「良いこと」しかありません。

以上により、赤よりも青(クロソイド区間はコンパクトに抑える)のほうが良いと考えています。

設計作業者として

上の2つと比べると、非本質的な話となりますが、クロソイド曲線というのはAutoCAD上では「短い直線の集まりのポリライン」で描画されるのですが、これは直線や円曲線等と比べると非常に扱いづらい(ようは面倒な)オブジェクトとなっています。

従って設計作業者としても、クロソイド曲線というのは無駄に長いよりかはコンパクトであるほうが有難いな、という思いもあります。

おわりに

以上、私が「クロソイドのパラメータは小さめに抑えたほうが良い」と考える理由について述べました。