【平面線形】卵形クロソイドについて詳しく解説します

はじめに

通常のクロソイド曲線は「直線と円曲線を接続するもの」ですが、卵形クロソイドは「大円と小円を接続するもの」となります。これの内容を詳しく説明します。

なお、日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」のことを、以下の文中では「解説と運用」と略して記します。また、算式の「二乗」は「^2」と表記しています。

「卵形クロソイド」の詳しい説明

ここでは、「大円R=500」と「小円R=200」を接続するものとして説明を進めます。接続するクロソイドのパラメータはA=200とします。なお、大円、小円の半径やクロソイドのパラメータがいくつであっても、趣旨は全く同じとなっています。

 

まず、普通に「直線」から「R=200」を接続するA=200のクロソイドを考えると、図(1)の通りです。

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クロソイドの延長は、

A^2=R×L

という基本式に、A=200、R=200を代入して、L=200mとなります。図では「L1」と記しています。

 

次に、これも普通に「直線」から「R=500」を接続するA=200のクロソイドを考えると、図(2)の通りです。図(1)と「直線(R=∞)」の位置を揃えて描画しています。

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先ほどと同様の計算によりL=80mが得られます。図では「L2」と表現しています。

 

クロソイド曲線の直線側の端点(KA点)は図(1)も図(2)も共通です。ここを基準点として、図(2)の、クロソイド曲線のR=500側の赤い点(KE点)を図(1)に持ってくると、図(3)のようになります。なお、図中及び以降の文章では簡便的に「曲率はR=500」と言ったような書き方をしていますが、正確には「曲率」とは半径の逆数となります。

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図(1)も図(2)も「A=200」は共通でしたから、赤い点は「L1=200m」のクロソイド上にぴったり乗ります。そしてこの点はKA点からL2=80mの位置となっており、またこのポイントでのクロソイド上の曲率(クロソイド上では刻一刻と曲率が変化しているが、この赤い点上での曲率)は、図(2)よりR=500であると分かります。

また、この赤い点からKE点までの延長は、単純な引き算によりL=120mと分かります。

 

従ってL1=200mの内の、左側のL2=80mを切り取ってしまえば、「左端の曲率がR=500、右端の曲率がR=200の、A=200のクロソイド」となります。切り取った点(赤い点)より左側にR=500の円曲線を設置すれば、図(4)のようになり、「大円R=500と、小円R=200が、A=200のクロソイド曲線で結ばれている」ことになります。

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この「左端の曲率がR=500、右端の曲率がR=200の、A=200のクロソイド」が「卵形クロソイド」の正体となります。

以上のような本質を知っていると、例えば大円と小円が決まっていたとして、長さが50m程度のクロソイドを入れたいなと思った時に、パラメータはどの程度にすれば良いかと言ったことは、公式的なものは全く知らなくても「A^2=R×L」という基本式さえ知っていれば、簡単に考えることが出来ます。

以上が卵形クロソイドの説明となります。以下、付随する留意点等を記します。

卵形クロソイドは大円、小円どちらの「持ち物」か?

標準的なクロソイドのパラメータAは、「解説と運用」P.365により、接続する円曲線Rに対して、

R/3 ≦ A ≦ R

の範囲で設定する必要があります。

また、卵形クロソイドの場合はその程度にもよると思いますが(個人的には大円の半径が大きい場合は上記式で良いと思う)、「解説と運用」P.369には以下のような式もあります。

R/2 ≦ A ≦ R

どちらにしても、円曲線の半径Rに従ってパラメータAを決定することになる訳ですが、では大円R=300と小円R=200を接続する卵形クロソイドを計画する場合、そのパラメータAを上記の範囲で設定するとして、その「R」は大円R=300なのか、小円R=200なのか、どちらで考えるのでしょうか?

結論を先に書くと「小円R=200」で考えるのが正解です。上記の「解説と運用」P.369にもその通り書かれていますが、以下ではその意味を説明します。

まず、普通に「直線R=∞」と「R=200」を接続するクロソイドA=200を考えます(図(5))。当然ながら、このA=200は「R=200の持ち物」です。

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これの左側の「直線R=∞」を非常に大きな半径である「大円R=5000」に置き換えて、卵形クロソイドとしたものが下の図(6)です。このように置き換えても、クロソイドA=200はあくまで小円R=200の持ち物であることは一目瞭然かと思います。

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従って左側の大円を、右側の小円R=200と近い、例えばR=300としても(図(7))、このクロソイドA=200はあくまで「小円R=200の持ち物」であると分かります。

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先ほどの関係式(大円の半径が大きいので下記式を採用)、

R/3 ≦ A ≦ R

を考える際、図(6)の状態で「大円R=5000」で考えてしまうと、パラメータは最小でもA=5000/3≒1667となってしまい明らかにおかしいと分かります。

従って、同様に図(7)の状態でも「大円R=300」でそれを考えるのはおかしいのであって、「小円R=200」で考えるのが正しいと分かります。

卵形クロソイドでも「最小緩和区間長」を確保すべきか?

例えば設計速度60km/hの道路で、大円R=300と小円R=250の接続を考えるものとします。

これらをクロソイドで接続する場合、「小円R=250」に対してパラメータAは、典型的な卵形クロソイドであるとして、

R/2 ≦ A ≦ R

の範囲ですから、最大値でA=250となります。この最大値を採用しても、下の図(8)のようになり、卵形クロソイドの延長は約42mにしかならず、V=60km/hの場合の最小緩和区間長L=50mを満たしません。

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では、通常のクロソイドではなく同方向の大円と小円を接続している「卵形クロソイド」であっても「最小緩和区間長」を満足させる必要があるのでしょうか?

個人的には「満足させる必要がある」と考えています。なぜなら、「解説と運用」のどこを読んでも「満足させなくて良い」旨は記されていない為です。

さて、そもそも「パラメータAの最大値」を確保しているにも関わらず、何故にこのように「クロソイド長が非常に短くなってしまうのか」と考えれば、それは「大円と小円の曲率の差が小さすぎる為」です。

すなわち、それほどまでに「曲率の差」が小さい訳ですから、下の図(9)のように「クロソイドは省略して、大円R=300と小円R=250を直接結ぶ」ようにすれば良いケースであると考えられます(いわゆる複合円)。

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この複合円(大円と小円の間のクロソイドの省略)に関しては「解説と運用」P.367から詳しく述べられており、設計速度60km/hで大円R=300、小円R=250であれば「クロソイドを省略して全く問題ないケース」と分かります。

このように「解説と運用」の記述に一致する設計方法があるにも関わらず、それに従わずに「敢えてクロソイドを挿入」する場合に、もちろん全ての条件を満足させられる形でクロソイドを挿入出来る場合(例えば大円と小円の曲率差がもう少し大きいケース)はそれで良いのですが、今回のように「パラメータの範囲を守ると、緩和区間長が不足する」(緩和区間長を守ればパラメータの範囲が外れる)というような相反事項があるにも関わらず「敢えて何かの条件が守れていないクロソイドを挿入する」という姿勢は、慎まれるべきであると考えています。

なお、それでもクロソイドを挿入したほうが良いケースはあります。例えば今回の設計速度60km/hの道路の種級が第4種第1級だった場合、大円R=300側には曲線拡幅がありませんが小円R=250側には曲線拡幅が生じますので、クロソイドを省略した場合、「曲線拡幅のすり付けはどのように行うのか」という問題が生じます。

もちろんそれでも方法はありますが、やはり「クロソイドを設けて、曲線拡幅はその間で一様にすり付ける」という方法が最も分かりやすいため、無用の間違いを避ける為にも「敢えてクロソイドを設置する」という姿勢はあって然るべきと思います。

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その場合は図(10)のように、パラメータの範囲は外れますが、「最小緩和区間長(50m)」の確保を優先して、それに見合うパラメータ(今回ならA=280)を採用するのが良いと考えています。

おわりに

以上、「卵形クロソイド」について詳しく解説してみました。