【平面線形】大円と小円の間のクロソイドの省略(複合円の採用)について詳しく解説します
はじめに
道路設計における平面線形に関して、直線と円曲線の間にはクロソイド曲線(緩和曲線)を設置します(直線と円曲線をクロソイド曲線で接続する)。下の図(1)では、直線(R=∞)と円曲線R=200をクロソイドA=200で結んでいます。
ただし円曲線の半径が大きい場合は、下の図(2)のようにクロソイドを省略して、直線と円曲線を直接結んで良いことになっています。なお、この円曲線の半径(限界曲線半径と言います)がどれくらい大きければこうして良いかは設計速度によって変わります。
さて、直線側(半径が大きい側、今回の上の図であれば左側)が直線ではなく、「同方向に曲がっている半径の大きな円曲線」の場合は、下の図(3)のように、大円と小円をクロソイド(卵形クロソイドと言います)で接続します。下の図(3)では大円R=500と小円R=200を卵形クロソイドA=200で接続しています。
ただし小円側(本図では右側)が比較的小さな曲線であっても、大円側(左側)もそれなりに小さい曲線であれば、「曲率の差」が小さいことから、下の図(4)のように大円と小円を直接結んで良いことになっています。なお、このように結んだ線形を「複合円」と言います。
本記事では、この図(4)のケースを採用する場合の留意点などを述べるものとします。なお、日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」のことを、以下の文中では「解説と運用」と略して記します。
曲率の「差」に着目して採用の可否を判断する
■判定式
平たく言えば大円と小円の曲率の「差」が大きければ、直接は結べず卵形クロソイドで接続する必要がありますし、その「差」が小さければ直接結んで良いことになります。
どの程度、その「差」が小さければ良いのかと言うと、「解説と運用」P.368の、
1/R0 > 1/r - 1/R
という式で判定します。
ここで、rは小円の半径で、Rは大円の半径です。R0は「解説と運用」P.365の「表3-20」の値となっています。
上記式を満たせば、下のほうに示す留意点に留意した上で「採用可」と判断します。
■R0について
上で、R0は「解説と運用」P.365の「表3-20」の値と書きましたが、この表には「計算値」と「ラウンド値」の二種類が併記されていますが、どちらを用いれば良いのでしょうか?
それは、「解説と運用」P.369の「表3-23」で行われている計算例から逆算すると分かります。
この表は、例として最初に決めた小円rに対して、
1/R0 = 1/r - 1/R
とした場合の大円Rを計算し、それを表の一番右の欄に記しているものです。
従ってこの表の小円rと(一番右の欄の)大円RからR0を逆算すると、判定にしようしているR0が分かることになります。
以下、「設計速度、小円r、大円R、逆算したR0」の順で列記すると、
V=120km/h、r=630、R=900、R0=2100
V=100km/h、r=410、R=572、R0=1448
V=80km/h、r=250、R=342、R0=929
V=60km/h、r=140、R=192、R0=517
V=50km/h、r=90、R=120、R0=360
V=40km/h、r=55、R=72、R0=233
V=30km/h、r=30、R=39、R0=130
V=20km/h、r=15、R=20、R0=60
となっており、この逆算値R0は「解説と運用」P.365の「表3-20」の「計算値」と概ね一致している為、実際に設計検討を行う際に用いるR0はこの表の「計算値」を用いれば良いと分かります。
■別の判定式について
「解説と運用」P.367には上記の判定式とは別に、「より複雑な判定式」の記載があります。
しかしながら、「解説と運用」P.368には、通常は冒頭で詳しく解説したほうの判定式を使用することとされており、「より複雑な判定式」は「やむを得ない場合のみ」使用することになっています。
私の経験では、この「より複雑な判定式」を用いる機会はほとんどなく、 冒頭で解説したほうの判定式を用いてクロソイド省略の可否を判断し、否となる場合は卵形クロソイドを入れて計画すれば特に問題ないケースがほとんどとなっています。
■目安にも留意する
「解説と運用」P.368では、上で述べた式での判定に加えて、一般的には、
・設計速度80km/h以上の場合、大円が小円の1.5倍以下
・設計速度80km/h未満の場合、大円が小円の2.0倍以下
のときにクロソイドを省略する(複合円とする)ほうが良いと記されていますので、余程の事情がない限り、この目安は守ったほうが良いでしょう。
■小円が「限界曲線半径」以上の場合は照査は不要
冒頭の図(2)を再掲します。
例えば設計速度60km/hの場合、円曲線の半径がR=1000以上であれば、図のように直線(R=∞)と直接結んで良い(クロソイドを省略して良い)ことになっています。この「R=1000」という値は「限界曲線半径」と言います。
直線であっても直接結んで良い訳ですから、当然ながら、例えば図の左側がR=∞(直線)ではなく、R=1000と同方向のR=5000であっても直接結んで良いです。何故ならR=∞よりも曲率の「差」が小さくなる訳ですから、より安全側である為です。
すなわち、大円R=5000、小円R=1000というような組み合わせで、小円の半径が「限界曲線半径」より大きい場合は、冒頭から述べたような判定(照査)は不要となります。
別の言い方をすれば、小円の半径が限界曲線半径以上の場合は、「大円が小円の∞倍まで許容される」ということになります(従ってR=∞と直接接続出来る)。
「R=5000はR=1000の5倍だから、『大円が小円の2.0倍以下』になっていないので、採用出来ない」というような判断は明らかに誤りですのでご注意下さい。
おわりに
以上、大円と小円の間のクロソイドの省略(複合円の採用)について詳しく解説しました。