【インターチェンジの設計】ランプのクロソイドも「最小緩和区間長」を確保すべき理由

はじめに

ここで述べる内容は、全て日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」に準拠した話となります。以下、「解説と運用」と略して記します。

さて、クロソイドに関して、本線(高速道路や一般道路)の場合は、

・「解説と運用」P.355で最小緩和区間が規定
・「解説と運用」P.363で最小パラメータが規定

と両方が規定されています。(他に「パラメータの範囲( R/3 ≦ A ≦ R )と片勾配すり付け率の確保にも留意します」)。

それと比べると、ランプの場合は、「解説と運用」P.556によれば(一文中を更に抜粋して引用)、

『クロソイドを考えた場合、その長さよりも、パラメータの最小許容値の指針を与えておくほうが便利な場合が多いので』

との方針で、

・「解説と運用」P.544で最小パラメータのみ規定

となっていて、最小長さ(最小緩和区間長)の規定がありません。

ここでは、規定がないからと言って最小緩和区間長を無視すべきではなく、本線に準じた最小緩和区間長を確保すべきと私が考える理由を述べるものとします。

最小緩和区間長を無視したケースを考える

例えば設計速度40km/hの、1方向1車線のA規格ランプを考えます。地形状況などにより、円曲線の半径はR=90を採用する場合とします。

上記の規定(「解説と運用」P.544の最小パラメータの規定)により、最小パラメータは設計速度40km/hの場合、A=35ですから、それを採用した場合、下図のようになります。車両の進行方向は図の左側から右側に向けて、左カーブとイメージして下さい。

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上図のような計画とした場合、見る限り「クロソイド長が極端に短い」印象となります。そして印象だけでなく実質的にも、

・クロソイド長が13.611mしかなく、走行時間で言えば約1.2秒相当しかない。本線の規定で最小緩和区間長(最小クロソイド長)を考える際のハンドル操作時間が3秒であることを考えると、極端に短いと考えられる。

・クロソイドの移程量(クロソイドがあるが故に円曲線の位置が直線の法線よりインカーブ側にシフトする量)が0.086mしかなく、あっても無くても走行者にとっては違いが無いレベルとなっている。

という風になっており、すなわち下図のような「クロソイドを省略した単曲線」と実質的には変わらない線形となってしまっている訳です。

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上記線形は「他の項目」も満たしてしまっている

■片勾配すり付け率の確保

上で述べたような「A=35、R=90の組み合わせ」は極端にクロソイド長が短くなってしまっている訳ですが、「ランプの線形において、最小パラメータA=35以外に、何か勘案すべき項目は無いのか」と考えた場合、まずは「片勾配すり付け率の確保」が挙げられます。

これは本線と同様にランプでも勘案する必要があり、「解説と運用」P.557でも以下の通り述べられています。

『ただし、片勾配のすりつけ長さが規定の最小パラメータのクロソイド曲線長を超える場合には、緩和曲線の長さは、原則として、すりつけ長さをとるものとする。』

では、上で述べた「A=35、R=90の組み合わせ」ではどうなっているかと言えば、1方向1車線のA規格ランプの場合はR=90であれば曲線拡幅は不要ですから、単純に車線3.50mの半分の1.75mに対して、左下りの1.5%(直線)から同方向(左下り)の7.0%(R=90)まで変化する下降量、

1.75m×(0.070-0.015)=0.09625m

のすり付け率を考えれば良いので、これがクロソイド長13.611mですりつくので、すりつけ率は

0.09625m ÷ 13.611m = 1/141

となっており、13.611mしかない短いクロソイド長でも、規定値1/100を満足してしまいます

■パラメータの範囲

ランプの規定では述べられていませんが、本線の規定では、円曲線の半径Rに対してクロソイドのパラメータAは、

R/3 ≦ A ≦ R

という範囲に収めることを推奨している訳ですが、今回の「A=35、R=90の組み合わせ」の場合、上記式のRに90を代入すると、

30 ≦ A ≦ 90

となる訳であり、A=35というのはこれも満足しています。

残された項目は「最小緩和区間長」しかない

これは設計者(技術者)の価値観によっても異なってくる話ですが、上記のような「A=35、R=90の組み合わせ」の線形に対して、「クロソイド長が極端に短く、実質的には単曲線と変わらないものであっても、各項目の規定値を満たしているのであれば、それでいいじゃないか」という考えもあると思います。

私はそのようには考えず、「実質的に単曲線と変わらないクロソイドというのは無駄でしかなく、また無駄なものは原則として設置すべきでないので、すなわちクロソイドを設置するのであれば、意味のある線形としたい」と考える訳です。

そして、クロソイドの長さをもう少し長めに設定する為に参照すべき規定の項目が他に何が残っているかと言えば、それは(本線の規定の)「最小緩和区間」しか残っていない訳であり、またこの長さは3秒走行長として算出されている(無理のないハンドル操作時間を3秒として算出されている)訳ですから、「本線(高速道路や一般道路)の走行者に対して無理のないハンドル操作時間である3秒を、ランプの走行者に適用しても、両者は基本的に同一人物(日本国内のドライバー)である訳なので、全く不自然ではない」と考えられますので、私は余程の事情が無い限り、この「最小緩和区間長」を勘案してパラメータ(クロソイド長)を決定しています

ちなみに、R=90に対して、設計速度40km/hの最小緩和区間長L=35mを確保した場合、パラメータはA=56.125となりますので、それを丸めたA=60を採用した場合の線形は下図のようになります。

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おわりに

以上、ランプのクロソイドも「最小緩和区間長」を確保すべきと私が考える理由について詳しく述べてみました。