【平面線形】クロソイドがある場合の最小曲線長について詳しく解説します

はじめに

日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」のことを、以下の文中では「解説と運用」と略して記します。

さて、平面線形の最小曲線長について、「解説と運用」P.325では以下の通り規定されています。

①道路交角が7°以上の場合…最小曲線長は最小緩和区間長の2倍…
②道路交角が7°未満の場合…上記とは別途で規定

クロソイドを設置する(省略出来ない)ような小さな半径で計画する箇所においては、道路交角は7°以上であるケースが主であると思いますので、ここでは上記①(☆印)を適用するケースでクロソイドを設置する場合(下図のような場合)の、その適用に関する留意点を詳しく解説致します。

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「最小曲線長」の最も基本の説明

極めて当たり前のことですが念のため記すものです。

クロソイドがある場合においては、通常「クロソイド+円曲線+クロソイド」と3つの要素が並びます。「最小曲線長」とは、この3つの要素の長さの合計となります。

最小曲線長を採用したケースとは?

以下、設計速度が60km/hの場合を例にとって説明しますが、設計速度が何km/hであっても主旨は共通となります。

さて、設計速度が60km/hの場合、「解説と運用」P.355より、最小緩和区間長は50mですから、最小曲線長はその2倍の100mです。例えば曲線半径R=200を採用する場合、これをそのまま採用すると下図の通りです。

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図の左から見て、曲率半径が無限大であるところからクロソイド(A=100)に差し掛かり、曲率半径が徐々に小さくなってそのクロソイドの終わり(図の中央)で曲率半径はR=200となりますが、それは一瞬で(R=200の要素長はL=0mで)すぐに右側のクロソイドに差し掛かり、曲率半径は徐々に大きくなってそのクロソイドが終わる点で曲率半径が無限大に戻るような線形です。

すなわち、上図のように前後のクロソイドの長さが最小緩和区間長L=50mで、かつ中央の円曲線の長さがL=0mであれば、当たり前ですが「クロソイド+円曲線+クロソイド」の長さは最小緩和区間長L=50mの2倍の100mとなりますので、これが「最小曲線長を採用した状態」となります。

上図のような線形は出来るだけ採用すべきでない

何となく直感でも「中央の円曲線の長さが0mってどうなの?」と違和感の感じる線形であると思いますが、「解説と運用」P.329~330においても下記の引用のように記されています。なお、引用文中の「凸型曲線」という文言は上図のような線形のことです。

<引用>
運転者は半径が最も小さくなったところで、急にハンドルを戻さねばならないので、最小の曲線半径が相当大きくないかぎり、スムーズなハンドル操作とはいえない。また、凸型曲線では、横断勾配のすりつけに十分注意しないと折れ曲がって見えることが多く、運転者に滑らかな感じを与えない曲線になる。
<引用終わり>

以上の通り、上図のような線形は、規定上ぎりぎり認められてはいるのですが、相当の理由がない限り「回避すべき線形案」ということになります。

改善方法

「解説と運用」にて上記の引用文の直後で述べられていますが、中央の円曲線の長さを「2秒走行長以上」確保するのが望ましいとされています。

 今回の例であれば設計速度が60km/hですから、すなわち車両は1時間(=3,600秒)で60km(=60,000m)を走行しますので、

1秒あたりの走行長=60,000m÷3,600秒=16.666…m/秒

従って、

2秒走行長 = 16.666…m/秒 × 2秒 = 33.333…m

となりますので、下図のように中央の円曲線の長さを33.333…m確保した状態が実質的な「最小曲線長」を確保した状態となります。

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実際の設計においての捉え方

最初に述べた「中央の円曲線の長さが0m」の状態でも道路構造令に「違反」する訳ではありませんので、地形やその他の状況によりやむを得ない場合であればこれも許されると言えます。

一方で道路構造令の「解説と運用」においては上述の通り、「中央の円曲線の長さが0m」は好ましくなく(0mと言うよりかは「2秒走行長」未満の短い延長であれば好ましくない)、中央の円曲線は「2秒走行長」以上の確保が望ましいと明記されている訳ですから、地形などの諸条件を勘案しても「2秒走行長」が確保出来るにも関わらず、この観点が頭から抜け落ちているが故に「2秒走行長未満」となってしまっている、というような設計は厳に慎まれなければならない、というのが私の考えです。

例えば設計速度60km/hの一般国道の設計において、下図のような線形があったとします。

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中央の円曲線の長さが「2秒走行長」33.333…mを割り込んでいますので、地形などの諸条件が許す範囲においては「見直すべき」というのが私の考えです。

「解説と運用」P.363により、設計速度60km/hの「一般国道」の場合、クロソイドの最小パラメータはA=90まで認められていますので、上記線形の

A=100をA=90に

見直し、また中央の円曲線に関して、

R=150をR=160に

見直せば、クロソイドのパラメータを小さくして円曲線の半径を大きくしていることから、左右のクロソイドは短くなって中央の円曲線が長くなる方向に作用し、前後の直線が全く同じ場合であっても下図のようになり、中央の円曲線の長さは「2秒走行長」33.333…m以上とすることが出来ます。

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この状態でもクロソイドの長さは最小クロソイド長(最小緩和区間長)50mを満足しており、かつ、変更前(青)と変更後(紫)を重ね合わせれば下図の通りであり、

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通過する位置も「ほとんど変わらない」訳ですから、片勾配すり付け率などその他の条件も満たされる(クロソイドが短くなったことによる不具合が生じない)のであれば、後者(紫)のように見直すべきと言うのが私の考えであり、また実際の設計においてもこのようなケース(受け取った既往の計画が前者(青)のような場合)において、上で述べたようなことを説明した上で後者(紫)のように見直すことを私は必ず提案しますし、余程の制約条件が無い限り、提案した後者(紫)が採用されます。

おわりに

以上、「クロソイドがある場合の最小曲線長」について詳しく解説しました。