【片勾配】規定の片勾配を付すことが出来ない場合の照査方法を詳しく解説します
はじめに
ここで述べる内容は、全て日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」に準拠した話となります。以下、「解説と運用」と略して記します。
概説
平面線形で採用した曲線半径に対して規定の片勾配を付すことが出来る場合はそれ以上考える必要は基本的に無いのですが、諸般の事情により規定の片勾配を付すことが出来ない場合、安全性に対する照査が必要となります。その照査方法を以下に解説致します。
この場合、「横すべり摩擦係数」という値を用いて照査を行います。
「解説と運用」P.340の以下の算式、
これの左辺iを右辺に移項し、
という算式で照査を行います。算式内の文字は以下の通りです。
f:横すべり摩擦係数
V:設計速度(km/h)
R:曲線半径(m)
i:片勾配
算式のざっくりとした意味を解説すると、Vが大きい(速度が高い)ほど、またRが小さい(カーブが急である)ほど、VとRから算出される値は大きくなりますが、そこから片勾配iを減じる(引く)ことにより、横すべり摩擦係数fを低く抑えることが出来ますので、逆に言えば、小さな片勾配iしか付すことが出来ない場合は、減じるiが小さくなることにより、横すべり摩擦係数が大きくなってしまう、という内容となっています。
こうして算出された「横すべり摩擦係数」の安全性を照査することになります。
実際の計算方法(サンプル)
■片勾配を低減する場合
逆片勾配とはならず曲線半径に準じた方向に片勾配を付すことが出来るが、規定の片勾配よりかは緩い値しか採用出来ないケースです。
例えば設計速度V=40km/hで、曲線半径R=80を採用する場合、片勾配の規定値は「解説と運用」P.334によりi=8%ですが、これが同方向だがi=2%しか付すことが出来ないケースを考えます。
先述の算式に、
V=40
R=80
i=0.02
を代入し、横すべり摩擦係数fは、
と算出され、これが規定値f=0.15よりかは小さいので「最低限の安全性は確保されている」と判断します。もし0.15を超えるようなケースなら、原則として曲線半径から見直す必要があります。なお、「規定値」に関しては後述します。
■逆片勾配となる場合
曲線の向きとは逆向きの片勾配が付いてしまうケースであり、非常に厳しいケースです。逆向きの片勾配なのでiがマイナスの値となり、すなわちfを増加させる方向に働きます。
例えば設計速度V=40km/hで、曲線半径R=130を採用する場合、片勾配の規定値は「解説と運用」P.334によりi=6%ですが、逆向き(逆片勾配)のi=-5%が付いてしまうケースを考えます。
先述の算式に、
V=40
R=130
i=-0.05
を代入し、横すべり摩擦係数fは、
と算出され、先ほどのケースと同様に規定値f=0.15よりかは小さいので「最低限の安全性は確保されている」と判断します。
判定に用いる「規定値f」について
■第4種以外の道路
「解説と運用」P.317の値を用います(設計速度により0.10~0.15の範囲で規定されている)。
■第4種道路
「解説と運用」P.342のf=0.15を用います。
■ランプの場合
「解説と運用」P.550の値を用います(設計速度などにより0.12~0.23の範囲で規定されている)。
本手法の扱い(注意事項)
以上で述べた内容は、「解説と運用」において手法として示されている訳ではなく、各項目(片勾配の項だけでなく最小曲線半径の項なども含めた全ての項目)を読み込む限り、「最低限、ここまでなら許されるだろう」と解釈した手法となっています。
従って、この手法を用いて、積極的に片勾配を低減したり逆片勾配を採用するような姿勢は厳に慎まれるべき、というのが私の考えです。
では、どのように活用すべきものかと言えば、往々にしてある「諸般の事情で、所定の片勾配を付すことが出来なかったり、場合によっては逆片勾配になってしまう」ようなケースにおいて、平面線形や縦断線形の立案段階も含めての「配慮」などに用いるべき性質のものとなります。
例えば下図のような交差点においては、
従道路の片勾配に合わせて主道路の縦断線形を波打たせる訳にはいきませんので、主道路の縦断勾配が右下り一定の2.5%だとすると、従道路は交差点を跨ぐ区間では必ず「逆片勾配2.5%」で通過することになります。
特に信号交差点の場合は、従道路側が青信号の際には減速せずに通過しますので、例えば従道路の設計速度がV=40km/hなら、青信号の場合は「単路部V=40km/h」と全く同様に「逆片勾配2.5%」で通過する訳です。
ここで例えば従道路の曲線半径にR=80を採用していた場合、横すべり摩擦係数fを算出すると、
となってしまい規定値f=0.15を超えてしまうので、せっかく平面線形や縦断線形、テーパー長などが全てV=40km/hの規定値を満足していても、この「横すべり摩擦係数」の判定によって「V=40km/hを満足しない」ものになってしまう訳です。
逆算すれば、R=101以上を採用していれば、
と規定値f=0.15を満足させることが出来る訳ですから、計画段階において「ここでは従道路は逆片勾配となってしまうが、主道路の縦断勾配が2.5%だとすると、従道路の曲線半径はR=101以上としておけば、最低限のf=0.15を満足させられるな」と配慮しながら計画するのが好ましいと思う訳であり、そのような際に用いる手法であると私は考えています。
結局、それでも「R=101以上は採用出来なかった」ということも往々にしてある訳ですが、「主道路の縦断線形が優先なんだから仕方ない」と何も考えていない、というような姿勢は技術者としては全くダメなのであって、達成出来るにしても無理にしても、まずは「目指すべき到達点はどこか」を常に考えながら計画(設計)を進める必要があるのだろうと思っています。
おわりに
以上、規定の片勾配を付すことが出来ない場合の照査方法を解説してみました。