【縦断線形】縦断曲線の「特例値」について詳しく解説します

はじめに

道路線形において、縦断勾配の変化点には縦断曲線(バーチカル)を設置します。

その縦断曲線に関しては基本的には「特例値」は規定されていないのですが、ある「唯一」のケースに限り「特例値」が認められており、ここではそれについて解説致します。

なお、日本道路協会から発行されている「道路構造令の解説と運用(平成27年6月)」のことを、以下の文中では「解説と運用」と略して記します。また、添付の縦断図は「横1:縦10」となっています(縦方向に10倍大げさに書いています)。

縦断曲線に関する「唯一」の特例値

■「解説と運用」で記述されている内容

「解説と運用」P.422の記述をそのまま以下に引用します。

<引用>
ただし、設計速度が1時間につき60キロメートルである第4種第1級の道路にあっては、地形の状況その他の特別な理由によりやむを得ない場合においては、凸型縦断曲線の半径を1,000メートルまで縮小することができる。
<引用終わり>

また、「解説と運用」P.433の記述をそのまま以下に引用します。

<引用>
都市部における主要幹線道路においては、設計速度60km/hで第4種第1級の設計が適用されることが多い。しかし、このような道路において立体交差等を行う場合、前後の交差点の状況等により規定の凸型縦断曲線半径をとることができない場合がしばしば生ずる。したがってこのような場合には、立体交差を助成する意味から用いることのできる凸型縦断曲線半径の最小値を縮小し、半径1,000mまで許容することができるものとする。この値を用いるときには、以上の趣旨を十分に勘案してから行うべきである。
<引用終わり>

「解説と運用」で述べられている内容は以上の通りです。

■解説

上記の内容を図解で解説していきます。

この特例値が適用されるのは都市部における下図のような道路です(横方法が本線(主道路)で、縦方向が交差道路(従道路))。

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都市部ですから、一般的には平地であり、かつ周囲に建物が多数ありますので、上図の赤い破線で囲っている本線立体部以外の、側道部分や交差道路部分がフラットな形状となっており、すなわち周辺の建物が経っている隣接地と容易にアクセス出来るようになっています。

従って立体交差部においては、赤い破線で囲っている本線立体部が凹凸を繰り返すことによって上に上がるか下に下がるかすることによって、交差点において交差道路と立体交差している訳です。

オーバーパス(本線が上)の場合の本線立体部の縦断図は下図のようになります。「第4種第1級・設計速度60km/h」の場合に限り、紫で示す凸型バーチカルに関して、規定値(標準値)の半径はR=1400であるところを、特例的にR=1000まで認めよう、というのが本規定の趣旨となっています。

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また、アンダーパス(本線が下)の場合の本線立体部の縦断図は下図のようになりますが、このケースにおいても紫で示す部分が凸型バーチカルとなりますので、本規定が適用されることになります。何故なら、上で引用した「解説と運用」の記述を読む限り、オーバーパスかアンダーパスかは特に言及されていない為です。

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以上が本規定に関する解説となります。

■適用の際の注意

ここで述べる内容は今回の件に限らず、どのような設計項目に関しても「特例値」を採用する場合には共通する話なのですが、特例値は「むやみに使用してはならない」という話です。

例えば設計速度が40km/hの一般道路に関して、「本路線は平面曲線半径は特例値R=50まで認める」と決定されている路線があった場合に、あたかも「今回はR=50が標準だ」と勘違いしてしまって、交角が薄くてR=50でもR=60(標準値)でもほとんど大差は生じないのに機械的にR=50を適用してしまっているような計画を見かけるのですが、このような姿勢は明らかに間違っています(と個人的にはそのように思っています)。

特例値というのはあくまで「やむを得ない場合に用いる」ものですから、標準値を用いても大差が無いにも関わらず特段の意味も無く特例値を用いるようなことはあってはなりません。

以上を踏まえ今回のケースを考えます。

都市部(市街地)と言っても地形が真っ平とは限りません。例えば地形の平均的な勾配が1%程度であったとして、本線がアンダーパスの場合の本線立体部の縦断線形は下図のようになります。下図の上段は凸型バーチカルを特例値(紫)、下段は標準値(緑)としています。

なお、上段の右側がR=1000ではなくR=1250なのは、最小縦断曲線長VCL=50がコントロールとなっている為です。結果的に半径はR=1250となり、R=1400(標準値)に満たないので特例値ということになります。

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図の左側に関しては、上段の特例値と下段の標準値では大きな差が生じていますが、右側に関しては折れが小さい(5%と1%が同方向の為)ことから上段でも下段でも大差は生じません。このような箇所において「今回の最小値はR=1000だから」と下段と大差が無いにも関わらず、また特段の(シビアな)制約条件も無い場合に「深く考えずに上段を採用している」というようなことはあってはならないと、個人的にはそのように考えています。

おわりに

以上、縦断曲線の「特例値」について詳しく解説してみました。